Studies into the past

© Laurent Grasso / ADAGP, Paris, 2021 Courtesy Sean Kelly, New York

Laurent Grasso | ローラン・グラッソ
Studies into the past
過去に学ぶ
2015
20.0 x 23.5 cm
oil on wood

ローラン・グラッソは、精密な調査に基づき、中世、近世の絵画の様式と技法を用いて、当時描かれることがなかったはずの科学現象や超常現象を描いた絵画作品などで知られています。

この黄金に輝く絵に描かれているのは、現在のフランス大統領執務室、通称「Salon doré(Golden room)」です。この執務室を持つエリゼ宮殿は、18世紀に建てられ、19世紀から現在まで大統領官邸として使われています。いわば、王政から民主政へと権力の在り方は大きく変わりながらも、変わらずフランスにおける権力の中心地のひとつであり続けた場所と言えるでしょう。本作は、まさにエリゼ宮殿が建てられた18世紀ごろのフランスで栄えたロココ絵画を連想させる様式で描かれています。しかし、その家具の配置は、現在の大統領執務室を思わせます。実際、この作品は2012年から2017年までフランスの大統領を務めたオランド前大統領時代に行われた取材に基づき製作されています。

現在と過去、変化と不変、現実と非現実が交錯するグラッソの絵画に描かれた大統領執務室は、まるで「権力」というものの曖昧さを表しているようです。光を反射してきらめく黄金の絵画を眺めながら、太陽の熱と光に当てられて朦朧とする意識と視界のように、グラッソの描く私たちが生きている世界とは異なる世界へと鑑賞者は迷い込むのではないでしょうか。

(解説:井ノ上 薫 / 翻訳:辻 愛麻)