Social Distortion

©Peter Halley

Peter Halley | ピーター・ハリー
Social Distortion
社会の歪み
1992
243.8 x 236.2 cm
acrylic, day-glo acrylic and roll-a-tex on canvas

ピーター・ハリーは、1980年代頃から批評家としても活躍したアーティストです。本作は、2m四方を超える大きな画面に、四角形や直線などの単純な図形が鮮やかな色で描かれています。絵に近づいて視界の全面に広がる色の中を探してみても、人や花など、具体的な何かが映し描かれているようには見えません。しかし、≪Social Distortion(社会の歪み)≫という作品のタイトルを読むとその印象は一転するのではないでしょうか。
ハリーが「社会の歪み」と名づけた画面全体を捉えようと離れて眺めてみると、中央の赤い四角形から画面の外へ、あるいは行きどまりへと伸びていく「管」に、情報社会を支える電子機器の基盤やプログラミングのフローチャートを重ねる人がいるかもしれません。あるいは、都市に張り巡らされたインフラ網を連想する人、社会への憤慨を中央の四角形の赤い色や伸びる黒い直線に託して、独房の中から外へと逃れようとする底知れない力を読み取る人もいることでしょう。≪社会の歪み≫は、一見して歪みなどないかのように整然としながら、鑑賞者が生きる社会を成り立たせこっそりと方向づけている、そのような様々なシステムに潜んでいるのではないでしょうか。

(解説:井ノ上 薫 / 翻訳:辻 愛麻)