日本海 隠岐
Hiroshi Sugimoto | 杉本 博司
日本海 隠岐
1987
Gelatin silver print
152.8 x 183.2 cm
1948年東京都御徒町で生まれた杉本は、1970年に渡米して以来、東京とニューヨークを拠点に写真家として活動、近年は舞台演出、著述活動、作庭、建築など活躍の場を広げています。
本作は、1980年代から2000年代初頭にかけて制作を続けた〈Seascape(海景)〉シリーズの一つで、島根県沖にある隠岐の島から眺めた海の風景を撮影したものです。
杉本は、世界各地の海を水平線を中心にした空と海2分割の構図に統一して撮影しました。さまざまな時間帯や天候下で撮影された海は、美しいモノトーンのグラデーションにより、細かな波の表情、天候や昼夜のわずかな光の違いも変化をみせ、一つたりとも同じ姿がありません。
水平線へ続く眺望は人類が古代から現代まで時空を超えて共有してきたであろう風景に着想を得たものです。そのため、画面からは時代がわかってしまうような陸地と人工物は一切排除されています。撮影も航空写真やドローンなどではなく、実際にその地に立って陸地の上から見える景色をレンズに収めました。この海景シリーズを見ていると、もしかしたら何万年も前の古代人が見たものと同じ景色を私たちも見ているような、時空を超えたような感覚に陥ります。
一般的に写真という技術は一瞬を切り取り、記録するものとされていますが、杉本の海景シリーズは何万年という時間をその一画面にとらえたものと見ることもできます。明確なコンセプトと巧みな条件設定によって新たな写真の魅力が引き出されています。
(解説:田口 美和)