The World’s Beginning
Marc Quinn | マーク・クイン
The World’s Beginning
世界の始まり
2010
油彩 / キャンバス
168.5 x 261.5 cm
マーク・クイン(b.1964-)は、1990年代のイギリスにおいてアートシーンだけでなく当時の政策にまで多大な影響を与えたアートムーブメント「YBAs」(ヤング・ブリティッシュ・アーティスツ)を代表する作家の一人です。クインは幼少期より物理学者である父の影響で科学的な事柄への興味が強く、作品にもそれが色濃く反映されています。クインの作品は、人体や遺伝子学、環境などの多角的な視座から、現代における「人間」のあり方(ヒューマニズム)とは何かを探求しています。
本作《The World’s Beginning》(2010)は「Flower Paintings」シリーズの一作です。
このシリーズは、街中のフラワーショップなどで購入した花や果実を超写実主義(ハイパーリアリズム)的に描いたペインティングの連作です。同じ季節に咲くこともなければ、同じ地域に生息することもない花果が一つのカンバスに同時に存在する様は、自然界をも意のままにコントロールしようとする人間の飽く無き欲望を表象しています。本シリーズのタイトルは、世界的に環境問題が盛んに取り上げられるようになった後につけられたことからも、クインが人間と自然界の関係に言及していることは明らかでしょう。人工的につくられた歪な美しさや「死」のあり方をも変容しようとする人間の欲望が招く未来の可能性の一つを、本作は内包しているといえるでしょう。
(解説:隅本 晋太朗 / 翻訳:辻 愛麻)