現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る

書名:現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る
発行年:2020年
発行:青幻舎
種類:一般書
言語:日本語
会場・開催期日:

京都精華大学は、2018年4月、マリ共和国出身のウスビ・サコを学長に迎えた。アフリカ出身者が大学の学長に就任したのは、日本で初めてのことであった。その京都精華大学に新たにアフリカ・アジア現代文化研究センターが設立されることを記念して、アフリカおよびディアスポラの現代文化に関する書き手たちを集めて出版されたのが本論集である。

第二部に美術に関する文章が多く掲載されている。緒方しらべは、ナイジェリアのイレ・イフェでのフィールドワークを元に、当地で「アート」に複数の在り方があることを描写した。グローバルな美術シーンでの「アート」とは別に、在来の首長の需要に応える「アート」や、市民の日常生活の要請に応じる「アート」があり、しかしその「アート」の境界は絶対的ではなく、アーティストは、自身の表現意欲と生活のための稼ぎとの間でバランスを取りながらその都度仕事を選んでいる。日本の現在の「アート」を考える上でも示唆の多い研究であろう。当コラムの著者中村は、アフリカの現代美術シーンの最前線の実践を、ローカルな美術のエコシステムを形成するインフラに着目して紹介した。2010年代からシーンで活躍する若手アーティストの作品画像も多数掲載されている。そして、「大地の魔術師たち」展が開催された1989年から2020年まで、アフリカ大陸内外にまたがるアフリカ現代美術シーンの動向を年表と、アフリカ大陸内のアートインフラを紹介したマップ、2つのインフォグラフィックでシーンの歴史と現在の概観を試みた(注1)。また、世田谷美術館学芸員の塚田美紀、福岡市美術館の正路佐知子がコラムを担当する。世田谷美術館は、川口幸也が日本で初めてアフリカの同時代美術の展覧会(「インサイド・ストーリー」展)を開催したことで知られるが、塚田は、同館コレクションを中心にアフリカ系現代アーティストや作品について紹介する。正路は、同館で開催されたナイジェリア系イギリス人アーティスト、インカ・ショニバレの日本初個展「インカ・ショニバレCBE:Flower Power」およびショニバレのコミッション作品「桜を放つ女性」について解説した。

本書は美術の他、音楽や建築、アニメなどの項目に加え、社会の営みや生活などにわたる幅広い「文化」をテーマとして扱う。例えば遠藤聡子は、アフリカの現代美術作品でも頻繁に主題となるアフリカの布「パーニュ」が、西アフリカの都市社会でファッションやビジネスとして息づく様子を、意外なエピソードと共に鮮やかに描く。そして、和崎春日・青木敬・菅野淑・小川さやからの章を通じて、ポルトガル語圏アフリカから、日本や韓国、香港などアジアの国々まで包む「アフリカン・ディアスポラ」の広がりについてまさに現在地が確認できる。美術が表象する、現代のアフリカの社会や文化について、基礎的な情報を多角的な視点から捉えられる一冊である。

注1:大陸内のインフラ建設の動きがあまりに盛んで、2021年現在この情報がすでに古いものとなってしまっており、アップデートを試みています。

目次
5 MAP アフリカ大陸

6 序文 現代アフリカの今―15の視点から、その現在地を探る ウスビ・サコ

12 座談会 「現代アフリカ・カルチャーの現在地」ウスビ・サコ/和崎春日/鈴木裕之/川瀬慈

41 第一部 現代アフリカ文化とその根底にあるもの

42 道端這いから世界を生きるストリート都市力―アフリカ生活力の都市人類学 和崎春日

56 グローバル・カルチャーから見る現代のアフリカの若者:抵抗か「ポップ」か 清水貴夫

67 第二部 アフリカのカルチャーシーンを視る

68 アフリカの都市生活とアート 緒方しらべ

82 Column 国際的に活躍する「アフリカ系」アーティストたち 塚田美紀

88 アートシーンのフィールドワーク ―現代アフリカ美術を取り巻く場と人々― 中村融子

106 Column 「Yinka Shonibare CBE: Flower Power」初の日本個展 インカ・ショニバレの姿 正路佐知子

112 現代アフリカ建築と建設の今 ウスビ・サコ

126 アフリカのアニメについて クラベール・ヤメオゴ(訳・補足 遠藤聡子)

134 よりワールドワイドに発展/躍進を続ける、新世紀のアフリカ音楽 吉本秀純

142 ポルトガル語圏アフリカのポップス:無形文化遺産モルナの価値と評価 青木敬

150 西アフリカの「パーニュ」のファッション 遠藤聡子

159 第三部 グローバル空間で紡がれるアフリカ文化

160 大陸の外で変容し続けるアフリカ文化を繋ぐ ~フランスにおける新たなアフリカ文化クリエイター達の肖像から~ 阿毛香絵

174 日本社会に生きるアフリカ地域出身者たち 菅野淑

182 いまだ遭遇していない者を織り込んだ「コミュニティ」―香港のタンザニア人の事例から― 小川さやか

192 「私たち」はどこに向かうのか―まとめにかえて 清水貴夫

195 謝辞

196 関連のおすすめ書籍

198 引用・参考文献一覧

著者略歴

中村 融子 | Nakamura Yuko

京都大学大学院アジアアフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻博士課程。東京大学法学部卒業。美術史・人類学の手法を用いて、主にアフリカ現代美術を研究する。美術制度史やアートエコシステムに焦点を当て、近代的美術制度の中心と辺境、陶芸史、現代陶芸もテーマとして扱う。キュレーター、講演等の活動を行っている。
著作に「アートシーンのフィールドワークー現代アフリカ美術を取り巻く場と人々」『現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る』(青幻舎)がある。
https://www.instagram.com/ottk128/

ArtReview Power100にみるアフリカのプレゼンス(3)世界とアフリカの現在とこれから

ArtReview Power100を通じて、「アフリカ視点で世界を見る」感覚を掴む配信のレポート、第一弾第二弾では、アフリカ現代美術シーンからランクインした人物や運動と背景事情を説明してきました。
配信では最後に、ランキング全体を見て今年のランキングの特徴を概観し、アフリカ関係のランクインがどんな人たちと並んで評価されているかを改めて眺めました。

 

ランキング全体を見て

非西洋への注目の高まりは、インドネシアのRuangrupaが2位であることからもわかります。2022年開催のドクメンタ 15のディレクターにも選ばれました。第二弾でお伝えしたように、ルブンバシ・ビエンナーレにも参加し、新しいグローバルの経路ができています。
3位の「古美術返還」に取り組む二人は、Metoo(4位)より上位のランクインであることをみると、国際的な重要性が理解できます。

 

アフリカン・アメリカンのキュレーターとアーティスト

▲Thelma Golden Photo: Julie Skarratt

8位には、ハーレム・スタジオ美術館のディレクター、Thelma Golden(テルマ・ゴールデン)がランクイン。塩原さんは、Frequency (2005年)というアフリカン・アメリカンの作家を紹介した展覧会で彼女を知り、この展覧会を通じてアフリカン・アメリカンのアーティストに注目するようになったといいます。00年代からずっとアフリカン・アメリカンについて取り組んできたキュレーターで、今年は、40位にランクインしたHank Willis Thomas(ハンク・ウィリス・トーマス)など、彼女が紹介してきたアーティストの注目が上がったことで彼女のランクも上がりました。同様に、ギャラリーのランクが上がると、そのレプレゼントするアーティストにも影響があります。13位 Pamela J.Joyner(パメラ・ジョイナー) もアフリカン・アメリカンのアーティストを多く扱うコレクター。多くの美術館のトラスティーにも入っているような「大物」で、South Southでは田口美和さんと共にアンバサダーを勤めています。

49位、Simone Leigh(シモーヌ・リー)は、次回2022年の第59回ヴェネツィア・ビエンナーレにて、アメリカ館代表黒人女性で初めてアメリカ館をレプレゼントするアーティストです。ちなみに彼女はセラミックを素材としているのですが、私中村は自身の研究で現代における陶芸(Ceramics)の国際的な立ち位置の変化を対象にしていることもあって、注目しています。

 

メガギャラリーとノンプロフィット(非営利団体)

32位、コヨ・クオの直前、29、30、31位は、Larry Gagosian (ラリー・ガゴシアン)David Zwirner (デイヴィッド・ツヴィルナーIwan Wirth, Manuela Wirth & Marc Payot(イワン・ワース、マヌエラ・ワース、マーク・パイヨ)。ガゴシアン、デイヴィッド・ツヴィルナー、ハウザー&ワースとメガギャラリーが3連続してのコヨ・クオ。日本の美術市場全体のそれを超えるような年商を誇るメガギャラリーのギャラリストに、アフリカ大陸の、しかも非営利組織であるアートセンター・美術館でキャリアを積んだ人物が並ぶということに彼女の仕事の偉大さを感じます。アートにおける「パワー」とは何か、どうその「パワー」を作れるかについて学ぶものの多い並びです。

65位、Liza Esser(リザ・エッサーズ)は、エル・アナツィやインカ・ショニバレをレプレゼントする大ギャラリー、南アフリカのグッドマンギャラリーのギャラリストです。オンラインのプラットフォーム South Southの立ち上げを主導しました。南アフリカは、近現代を通じて、アフリカ大陸の中でもブラック・アフリカとは異なる立ち位置にある国ですが、(エジプトと南アはアフリカじゃない、みたいなジョークもあったりします)近年パン・アフリカンな動きが美術では多く見られます。従来のGlobal Northの側で加わる形で商売をしてもいいところ、非営利団体への寄付や教育普及的な活動を通じて、アフリカや非西洋の連帯を促す仕組みづくりへのイニシアティブを取る姿勢には感銘を受けます。
直後にサミー・バロジが67位で入ってきますが、南アに比べて政治経済的に安定性が低く、国家のサポートが薄いコンゴ民主を拠点に、ここに入ってくるすごさを感じますね。

 

アジア・環太平洋地域とアフリカ

▲キム・スンジュンPhoto:  cho.ok.soo

42位には、シドニー・ビエンナーレのディレクター、Brook Andrew(ブルック・アンドリュー)がランクイン。NIRIN(ウィラドゥリ語で縁、辺境…の意味)というテーマで、オーストラリアの先住民やクィアのアーティストに光をあてたビエンナーレには、サミー・バロジ(コンゴ民主)やイブラヒム・マハマ(ガーナ)らアフリカからも多くのアーティストが参加しました。

72位には韓国、光州ビエンナーレ財団のキム・スンジュンが入賞。光州の民主化運動の記憶を受け継ぐビエンナーレですが、今年の2008年の第七回にはナイジェリア人キュレーターのオクイ・エンヴェゾーがディレクターとして登用したことで有名で、2021年に開催される第13回でも多くのアフリカのアーティストを紹介しています。83位にも韓国のギャラリスト、リー・ヒョンスクがランクイン。ソウルにあるKukje Gallery(国際ギャラリー・국제갤러리)のオーナーです。配信当日、塩原さんの後ろにかかっていたアボリジリーのダニエル・ボイドの作品もこのギャラリーから購入されたようです。国際的な視野を持って環太平洋的な展開がここにも見られます。
このように東アジアの美術シーンでは、独立した主体として世界の美術の中で自身の歴史や文化をその中で表現するビエンナーレ、ギャラリーが多く存在し、そこでは西洋近代的な視野ではない視野でものごとが展開しているんですね。
「日本はアフリカから遠いので関心って持ちにくいですよね~」みたいな話を耳にすることもありますが、少なくともアートについて言えば、東アジアでは異なる枠組みですでにことが進んでいます。むしろアートを通じて一般社会に関心の回路を開く役目を担っていきたいところですね。

 

国籍別ランクインから考える

ランクインしたアフリカ大陸の関係者をおさらいすると、南アフリカやガーナといった英語圏からのランクインが多い点についても議論がありました。その中で、コンテンポラリーのアート、とくにマーケットでは、フランスよりもアメリカ・イギリスのパワーが強いことが理由として挙げられました。日本では美術の本場!という強いイメージがあるフランスですが、モダンアートや戦後のアヴァンギャルドまでの話。コンテンポラリーではアメリカが強く、ヨーロッパでも、YBAの時代からイギリスが強いプレゼンスを誇っています。パワー100を国別にみると、ここ三年連続一位はアメリカで二位がイギリス。併せて40人前後を占めます。フランスは毎年7,8人入るかというところです。フランスは、ポンピドゥ―・センターを始め国を挙げての取り組みで、現在少しずつ勢いを取り戻そうとしています。

塩原さんから、国別でみても日本がなかなか入ってこない状況(2018年2人、2019年1人、2020年はランクインなし)をさみしく思い、これから日本からのランクインが増えるようなアートの展開に期待したいとのまとめを頂きました。アフリカの実践は、以前欧米中心性の強い国際的なアートワールドでどうパワーをつけるかについて、日本のお手本にもなる部分があります。

 

これからのスターたち

最後に、きっとパワー100にもランクインしてくる、次世代のアフリカ現代美術シーンのスターたちの動向を紹介します。

▲© Aida Muluneh for the Nobel Peace Center

 

アーティスト

Ibrahim Mahama(イブラヒム・マハマ):田口さんは、2015年のヴェネツィア・ビエンナーレで、エントランスに延々と続くジュートの袋に圧倒されたとその第一印象を語ります。2017年にはドクメンタ14、Pinchuk Art CenterによるFuture Generation Art Prizeを受賞。2018年Basel Miami でMargulies Collectionに収蔵されたマハマ作品と再会した田口さんは、若手の登竜門である有力アワードの受賞とビックコレクションへの収蔵という進捗を目の当たりにして、将来の活躍が約束されたような印象を受けたそうです。そして2019年、ヴェネツィア・ビエンナーレに初参加したガーナ館に満を持して参加。こんな世界的アーティストでありながらマハマは、ガーナのタマレでSavannah Center for Contemporary Art というアートセンターを自ら運営し、教育や美術史、図書館に関する多角的なプログラムを次々と打ち出しています。それらの功績が認められ、2020年に、プリンス・クラウス賞を受賞。オランダのクラウス殿下の名前を冠した、発展途上国で文化と開発に貢献したイニシアチブに対して贈られる賞で、2008年にはエル・アナツィも受賞しました。

Joël Andrianomearisoa(ジョエル・アンドリアノメアリソア):同じく2019年ヴェネツィア・ビエンナーレでマダガスカル館を担当したジョエル・アンドリアノメアリソアも、マダガスカルの首都アンタナナリボにアートセンターHakanto Contemporaryを、マダガスカル館のスポンサーでもある事業家と創設。
Aidah Muleneh(アイダ・ムルネ):フォトジャーナリストの経歴も持つ、写真を用いるエチオピアのアーティスト。2020年には、ノーベル平和賞のコミッションを受けて、飢餓と政治をモチーフにした連作を制作。こちらから充実したオンライン展示がご覧になれます。

Gosette Lubondo(ゴゼット・ルボンド):2020年CAP Prizeを受賞。サミー・バロジと同じくコンゴ民主共和国の写真を用いたアーティストで、アメリカでは同じAxis Galleryに所属しています。1993年生まれの若さで国際的な多くの展覧会でカバー・アイキャッチにも採用される次世代のスターアーティストです!
Eddy Kamuanga(エディ・カマンガ):サミー・バロジと同じコンゴ民主共和国の若手スター。フランスでは同じImane Farèsに所属しています。近代化や民族の誇り、アフリカの表象を巡って独自の目線で表現した絵画で知られます。

 

キュレーター・ギャラリストたち

Touria El Glaoui(トゥリア・エル・グラウィ):アフリカ現代美術のアートフェア、1-54を創設したモロッコ出身のギャラリスト。

ツァイツ・アフリカ現代美術館のキュレーターたち:6人の女性キュレーターを特集したこちらの記事では、コヨ・クオ、トゥリア・エル・グラウィと並んで、ツァイツ美術館のキュレーターTandazani Dhlakama(タンダザニ・ダラカマ)が紹介されています。ツァイツでは、彼女の他に、Sakhi Gcina(サキ・チーナ)というキュレーターがLGBTQのアーティストを取り上げた取り組みで注目されています。クオの後進の躍進が期待されますね。

 

さいごに

以上、パワー100を通じてアフリカ視点で現在のアートワールドを総覧してみました。アフリカに関する情報は、義務教育や大手メディアの報道を通じて得られるものも随分限られ、また偏っていましたが、世代を下るごとにその状況に大きな変化が起きていると思います。私自身、今の高校生はこんなに学校で習うのか!と驚くこともあり、そのたびに、自分の知っていることが限られているという前提をもって、様々な情報に自分自身を開いていきたいと思うところです。今日では、多くのアーティストやキュレーターはInstagram等を通じて日々様々な発信を行っています。ぜひ、気になったアーティストたちをフォローして、アフリカから直に発信される情報に接してみてください。このコラム等を通じて、次世代のアーティスト、キュレーターやコレクターについて、まとめて発信できるような機会ももちたいと思います。

著者略歴

中村 融子 | Nakamura Yuko

京都大学大学院アジアアフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻博士課程。東京大学法学部卒業。美術史・人類学の手法を用いて、主にアフリカ現代美術を研究する。美術制度史やアートエコシステムに焦点を当て、近代的美術制度の中心と辺境、陶芸史、現代陶芸もテーマとして扱う。キュレーター、講演等の活動を行っている。
著作に「アートシーンのフィールドワークー現代アフリカ美術を取り巻く場と人々」『現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る』(青幻舎)がある。
https://www.instagram.com/ottk128/

ArtReview Power100にみるアフリカのプレゼンス(2)アフリカ現代美術シーンのスターたち

第一弾では、このパワー100のランキングを通じて、「アフリカ視点で世界を見る」こと、そのためのいくつかの重要なキーワードをご紹介しました。
さらにランキングを見ていくと、アフリカ現代美術のホットな動きを代表する、スターアーティストやキュレーターたちが登場します。

 

32位 Koyo Kouoh

Koyo Kouoh. Courtesy Zeitz MOCAA, Cape Town

Koyo Kouoh (コヨ・クオ)は、アフリカ現代美術シーンを代表する美術史家でありキュレーターです!1967年生まれのカメルーン人の彼女は、セネガルの Raw Material Company (ロー・マテリアル・カンパニー)の創業者で、現在は南アフリカのZeitz MOCAA(ツァイツアフリカ現代美術館)のディレクターを勤めています。彼女が大陸内でキャリアを形成しながら、オッペンハイム賞(2020年)を獲得するなど、国際的なプレゼンスを確保してきました。それは、オクイ・エンヴェゾーたちは、アメリカとか欧米の機関でキャリアを積んだ時代からの変化を感じますね。

まず注目したいのは、彼女がアフリカ大陸諸都市のアートセンターの創業者であること。アフリカ諸国では、公立の美術大学や美術館などのパブリックな美術インフラが脆弱である一方で、ローカルな美術の生態系を育む様々な新しいインフラが創出されています。その中でも、重要性を増しているのがアートセンターで、ロー・マテリアル・カンパニーはベナンのジンスー財団と並んでその先駆的な存在です。キュレーション、美術教育、レジデンス、知的生産、そして理論や批評についてのアーカイブまで行う、アートの総合施設として柔軟な役割をはたしています。

Zeitz MOCAA linked In より

 

さらに彼女は、2019年に、ツァイツアフリカ現代美術館のディレクターに就任しました。2017年に南アフリカ・ケープタウンにできた巨大な美術館で、アートセンターで培ったノウハウを活かした企画を次々と打ち出しています。特に、2020年コロナ禍では、Head To Head というインスタグラムライブでの連続対談企画や、”Home is where the art is”というケープタウン市民の「持ち寄り」アート展など画期的で柔軟な企画で充実したアート活動を行いました!

2021年のArtnetの記事では、7人の美術館のトップの一人として、片岡真美(森美術館館長、次のあいちトリエンナーレのディレクター)らと共に美術館の未来についてインタビューを受けています。ここでも彼女は、既存の美術館の機能に留まらない動きの必要性を訴え、また、ウガンダ・カンパラのAfriart Galleryの例を引きながら、アートのエコシステムを機能させるために、独自のアートインフラを構築する必要性を訴えています。

What Is the Future of Museums? 7 Predictions From Max Hollein, Koyo Kouoh, Anne Pasternak, and Other Top Curators and Directors

 

 

52位 Zanele Muholi 

Courtesy Zanele Muholi

Zanele Muholi (ザネレ・ムホリ)は、南アフリカのアーティスト、”ヴィジュアル・アクティビスト”です。南アは白人国家として出発し、アパルトヘイト政策を超えて現在に至る、アフリカ大陸でも独自の歴史を持つ国です。彼女のほかには、William Kentridge(ウィリアム・ケントリッジ)が有名ですが、ケントリッジは、過去に京都賞を受賞し、来日して作品を制作したこともあるそうです。
ムホリは、南アフリカの歴史の中で不可視化されてきたLGBTQの表象を写真で記録し、伝えてきました。アパルトヘイトを超えて「虹の国」になったはずの南アフリカでも、特に黒人のLGBTQのグループは、差別の対象となる現実があります。女性同性愛者は、おぞましいヘイトクライムの対象にもなりました。彼女自身、女性同性愛者としての当事者性も反映しながら、現実を克明に伝えるとともに、被害者性を超えて多様な姿も発信しています。

https://www.nytimes.com/2020/12/02/arts/zanele-muholi-tate-modern.html

67位 Sammy Baloji 

 

2018年にベルギーにて中村が撮影。Sammy Baloji(左)と同じくコンゴ民主共和国出身のEddy Kamuanga(右)

67位には、コンゴ民主共和国の偉大なアーティスト、Sammy Baloji(サミー・バロジ)がランクインしました!コンゴ民主共和国は、大地の魔術師たちのキュレーターの一人、アンドレ・マニャンと、彼が同展で出会ったジャン・ピゴッツィの協同によって、シェリ・サンバら、アール・ポピュレールの作家が90年代にアートワールドのスターダムにのし上がったことでよく知られます。コンゴ民主や首都のキンシャサをテーマにした展覧会が、2010年代だけでも複数ある、アフリカ現代美術のスター国です。

そんな中、Sammy Balojiは、首都キンシャサではなく東部のルブンバシの出身で、アール・ポピュレールの作家たちとは異なり、シリアスな作品を作ります。
コンゴ東部の鉱山都市の植民地時代、独立後も続く搾取の歴史についてリサーチし、実際に鉱山会社に残っているアーカイブも使って作品を作っています。 

 

Untitled 25, 2006 Series: Mémoire Axis Gallery より


Johari – Brass Band © Collection Grand Palais, photo Didier Plowy Merci

パリ・グランパレへのコミッション作品が2024年まで展示されています。

彼は、キュレーターやオーガナイザーの仕事を幅広く手がけています。コンゴ民主という国や歴史の表象・語られ方に多面的に働きかけているんですね。その中でも重要で、パワー100でも触れられているのが、ルブンバシ・ビエンナーレです。Rencontres de Bamako (バマコの出会い)という94年から始動したマリの国際写真ビエンナーレをモデルに、2008年に地元ルブンバシで国際ビエンナーレを創設しました。

2019年のエディションでは、コロンビア大学で博士号を取り立ての気鋭の学者Sandrine Colard をディレクターに登用しました。そして、2020年、パワー100の2位にランクインしたインドネシアのアートコレクティブ 、Ruangrupaともコラボしています。

こちらのNew York Times の記事に詳細なレポートがあります。

ここでも、アフリカと東南アジアが、西洋を経由せずに直接つながる形で、国際的にトップレベルのコラボレーションが実現しています。アフリカから世界を見る視点の獲得や、日本とアフリカの本来あるべき対等なつながりを考えることが、急務であることが実感できるのではないでしょうか?

第三弾では、パワー100全体を見て、どんな人々とアフリカが並んでいるかを見ながら、これからのアフリカ現代美術シーンについてを見ていきたいと思います。

著者略歴

中村 融子 | Nakamura Yuko

京都大学大学院アジアアフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻博士課程。東京大学法学部卒業。美術史・人類学の手法を用いて、主にアフリカ現代美術を研究する。美術制度史やアートエコシステムに焦点を当て、近代的美術制度の中心と辺境、陶芸史、現代陶芸もテーマとして扱う。キュレーター、講演等の活動を行っている。
著作に「アートシーンのフィールドワークー現代アフリカ美術を取り巻く場と人々」『現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る』(青幻舎)がある。
https://www.instagram.com/ottk128/

ArtReview Power100にみるアフリカのプレゼンス(1)アフリカ視点でみる世界

もはや「アフリカの現代美術、珍しいですね!」ではない

アフリカ現代美術が専門で…というとしばしば、非常に珍しいことをやっているね!!というようなリアクションを頂きます。たしかに、日本語で情報を検索すると、ウェブでも紙でも非常に限られた情報しか出てきません。
しかし、アフリカ諸国はグローバルなアートワールドですでに一定の立場を確保しており、英語・フランス語で検索すれば毎日のように新しい情報が追加されているといって過言ではありません。
「大地の魔術師たち」(1989年、パリ・ポンピドゥーセンター)をひとつの契機として、アフリカ大陸本土や欧米諸国はもちろん、韓国や台湾でも、あらゆる動きが積み重なって今日に至っています。
はっきりいうと、日本語圏の情報と実践は、国際的な美術状況から、取り残されている状況です。

また、現在のアート全体を考える上でも、西洋中心主義からの脱却やアートの脱植民地化といったキーワードは、必須知識です。
例えば、グローバル・サウス(かつては第三世界という言葉が使われていましたが)のマーケット関係者を繋ぐプラットフォームであるSouth Southには、多くのアフリカのギャラリーやキュレーターとともに、田口美和さんもアンバサダーとして参加されています。非西洋地域同士の連帯は、マーケットのレベルで実践に移されており日本も当事者です。もはや、
アフリカ現代美術って珍しいですね、から悠長に話を始めている場合ではない。

……だとしたら、どんなことを”言ってる場合”なのか。

これを知るため、ArtReview Power 100を題材に、2月27日に無料オンライン講座「アートパワー100に見るアフリカのプレゼンス」の配信が田口美和、塩原将志、中村融子の3人のトーク企画として実現しました。(イベント概要および登壇者プロフィールはこちら→アートパワー100にみるアフリカのプレゼンスーアフリカ現代美術シーンの現在地ー

この記事では私中村が、ダイジェストで内容をお伝えいたします。「今」、アートワールドでアフリカに触れる感覚を、パワー100を通じて一緒に掴んで参りましょう。

 

Art Review Power 100と、2020年ランキングの特徴

まず、塩原さんからパワー100の基本をご解説頂きました。

Power 100は、ArtReview誌(1949年創刊)が毎年発表する、アートに影響力を持つ人々のランキングです。Po選考に関わるパネルは、20~30人。パネルが誰かは具体的に明かされておらず、以前にパワー100にランクインされた人物が入っていることと、パネルの活動拠点(デリー、上海、北京、ニューヨーク、ロサンゼルス、メキシコ、サンパウロ、ドバイ、パリ、ベルリン、ミラノ、ロンドン)だけが明かされています。

今年の特徴としては、コロナの影響で、いつも上位を占めていたメガギャラリーのランクが落ち、その結果、アカデミックの人々のランクインが増えました。そして、BLMとMetooのムーブメントが入ってきた。

また、今回テーマとなるアフリカの人々は、国籍でカウントすると、2018年から毎年3~5人ずつ入っています。2020年の特徴は、アフリカン・アメリカンを中心にしたアフリカ系ディアスポラの方が増えたことです。”黒人”の方が増えたと言われているけれど、その内訳としては、アフリカ諸国からというより、ディアスポラが多いということに注目しましょう。

 

▲Power 100 カテゴリー別集計(作成:田口美和)

 

ランキングをアフリカ視点で見てみよう

さっそく、上からランキングを見てみましょう。

1位 Black Lives Matter

Black Lives Matterは、2013年に始まった欧米諸国での反人種差別運動です。私もアフリカを専門に扱ってはいますが、アメリカや南アフリカといった白人中心国家での黒人差別というのは実に構造的で複雑な経緯を経ており、うかつにコメントできないというか、これから勉強を重ねなければと思う分野でもあります。

BLMへの注目が日本でも高まる今年、私が気になったのは、日本語圏ではしばしば、欧米諸国(いわゆるGlobal North)でのエスニシティの問題、同じ国民間で起こる構造的人種差別の問題と、アフリカ大陸の出来事や脱植民地の問題がごっちゃにされていること。そしてその結果、アフリカ大陸の話題、植民地支配の負の遺産、アフリカの表象の主体性についての議論や実践の積み重ねが、無視されていることでした。

様々な場面でもどかしさを抱くと共に、正直「美術の専門家がこんな発言を?」とびっくりすることも多く、欧米経由でアフリカを見るのではなく、アフリカ大陸の側から世界を見る視点がアートにはもっと必要だと痛感しました。そして、いわゆる「黒人」の解像度を上げるということと、ブラックアフリカだけじゃないとアフリカの多様性を知ること、アフリカの歴史や文化、政治の解像度をあげていくこと。国際的なアートを見る上では必須の視点ですが、アートを通じてこそ知りやすいとも思います。

▲アフリカのアートインフラマップ(デザイン:高石瑞希)。アートシーンの代表的な人物をみるだけでも、色んな人がいることがわかりますね。


さて、日本の報道等であまり扱われないアフリカ大陸視点の重要問題の代表例が、次に扱う「古美術返還」ではないでしょうか。

 

3位 Felwine Sarr and Bénédicte Savoy

三位には、セネガルの経済学者Felwine Sarr (フェルウィン・サール)とフランスの美術史家、Bénédicte Savoy(ベネディクト・サヴォイ)がランクインしました。この二人は2018年、フランスのエマニュエル・マクロン大統領に、大統領勅命のもと、アフリカ諸国から略取された美術品の返還を促す報告書を提出したことで知られています。植民地時代に旧宗主国に持ち去られた古美術の返還は、長年問題になってきました。マクロン大統領が2017年にアフリカ遊説において「優先的な課題」として扱ったことで、具体的な動きを見せています。

 

Felwine Sarr, at left, and Benedicte Savoy. Photo: Alain Jocard/AFP/Getty Images.

▲Felwine Sarr(左)と Benedicte Savoy(右) Photo: Alain Jocard/AFP/Getty Images.


日本の古美術も部分的に海外流出していますが、根本的に違うのは、アフリカ各国では美術館・博物館に行っても古美術が本当に全然ない!ということ。聖像破壊といって、入植者や教会の宣教師が、在来の宗教の道具であった彫刻や仮面を破壊したという事実もあります。現地の美術館には、日本人の想像を超えて現地のものがないんです。教育の過程でも、まったく自国の古典に触れられないわけですね。

そして、フランスのモダン・アートにアフリカの古美術が影響を与えた事実は有名ですが、それもこうしたできごとと裏返しです。アール・ネーグルやプリミティヴィズムを通して、”西洋近代美術の巨匠が認めたから”という角度でアフリカの美を賛美することの問題点は、意識しなければなりません。

日本でも広義の植民地主義的な展示を見直す動きはあります。例えば、静岡県立美術館の木下直之館長は、着任直後にいわゆるミイラ展の開催を見直しました。また、アフリカ諸都市では、「旧植民地から返してもらった後」を見据え、古美術の展示場所を作ったり、箱モノだけではなくちゃんと市民に届ける仕組みを用意する流れがスタートしています。

 

24位 Achille Mbembe

 

▲Courtesy Wikimedia Commons

24位には、ポスト・コロニアル理論の大家である哲学者、Achille Mbembe(アキーユ・ンベンベ)がランクイン。2001年に”On the Postcolony”を出版し、学術界では多大な影響を与え続けてきた人物ですが、パワー100には2019年初めてランクインしました。ポスト・コロニアルの理論が、アートにおいても無視できない影響力を与え始めたことが分かります。
またンベンベは2016年、フェルウィン・サールと共にLes Ateliers de la Penséeという年一度のカンファレンスをセネガル・ダカールで立ち上げました。これも、アフリカに関する学術的な言説を生む重要なプラットフォームになっています。2020年にサールとンベンベはオープンレターを通じて、人種差別的なまなざしから離れた、新しいアフリカへの歴史観が必要であると訴えています。

第二弾では、アフリカ現代美術のスターである、キュレーターやアーティストらのランクインを通じて、いまもっともアツい大陸のアートシーンの動きをお伝えしたいと思います。

著者略歴

中村 融子 | Nakamura Yuko

京都大学大学院アジアアフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻博士課程。東京大学法学部卒業。美術史・人類学の手法を用いて、主にアフリカ現代美術を研究する。美術制度史やアートエコシステムに焦点を当て、近代的美術制度の中心と辺境、陶芸史、現代陶芸もテーマとして扱う。キュレーター、講演等の活動を行っている。
著作に「アートシーンのフィールドワークー現代アフリカ美術を取り巻く場と人々」『現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る』(青幻舎)がある。
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