現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る

書名:現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る
発行年:2020年
発行:青幻舎
種類:一般書
言語:日本語

京都精華大学は、2018年4月、マリ共和国出身のウスビ・サコを学長に迎えた。アフリカ出身者が大学の学長に就任したのは、日本で初めてのことであった。その京都精華大学に新たにアフリカ・アジア現代文化研究センターが設立されることを記念して、アフリカおよびディアスポラの現代文化に関する書き手たちを集めて出版されたのが本論集である。

第二部に美術に関する文章が多く掲載されている。緒方しらべは、ナイジェリアのイレ・イフェでのフィールドワークを元に、当地で「アート」に複数の在り方があることを描写した。グローバルな美術シーンでの「アート」とは別に、在来の首長の需要に応える「アート」や、市民の日常生活の要請に応じる「アート」があり、しかしその「アート」の境界は絶対的ではなく、アーティストは、自身の表現意欲と生活のための稼ぎとの間でバランスを取りながらその都度仕事を選んでいる。日本の現在の「アート」を考える上でも示唆の多い研究であろう。当コラムの著者中村は、アフリカの現代美術シーンの最前線の実践を、ローカルな美術のエコシステムを形成するインフラに着目して紹介した。2010年代からシーンで活躍する若手アーティストの作品画像も多数掲載されている。そして、「大地の魔術師たち」展が開催された1989年から2020年まで、アフリカ大陸内外にまたがるアフリカ現代美術シーンの動向を年表と、アフリカ大陸内のアートインフラを紹介したマップ、2つのインフォグラフィックでシーンの歴史と現在の概観を試みた(注1)。また、世田谷美術館学芸員の塚田美紀、福岡市美術館の正路佐知子がコラムを担当する。世田谷美術館は、川口幸也が日本で初めてアフリカの同時代美術の展覧会(「インサイド・ストーリー」展)を開催したことで知られるが、塚田は、同館コレクションを中心にアフリカ系現代アーティストや作品について紹介する。正路は、同館で開催されたナイジェリア系イギリス人アーティスト、インカ・ショニバレの日本初個展「インカ・ショニバレCBE:Flower Power」およびショニバレのコミッション作品「桜を放つ女性」について解説した。

本書は美術の他、音楽や建築、アニメなどの項目に加え、社会の営みや生活などにわたる幅広い「文化」をテーマとして扱う。例えば遠藤聡子は、アフリカの現代美術作品でも頻繁に主題となるアフリカの布「パーニュ」が、西アフリカの都市社会でファッションやビジネスとして息づく様子を、意外なエピソードと共に鮮やかに描く。そして、和崎春日・青木敬・菅野淑・小川さやからの章を通じて、ポルトガル語圏アフリカから、日本や韓国、香港などアジアの国々まで包む「アフリカン・ディアスポラ」の広がりについてまさに現在地が確認できる。美術が表象する、現代のアフリカの社会や文化について、基礎的な情報を多角的な視点から捉えられる一冊である。

注1:大陸内のインフラ建設の動きがあまりに盛んで、2021年現在この情報がすでに古いものとなってしまっており、アップデートを試みています。

目次
5 MAP アフリカ大陸

6 序文 現代アフリカの今―15の視点から、その現在地を探る ウスビ・サコ

12 座談会 「現代アフリカ・カルチャーの現在地」ウスビ・サコ/和崎春日/鈴木裕之/川瀬慈

41 第一部 現代アフリカ文化とその根底にあるもの

42 道端這いから世界を生きるストリート都市力―アフリカ生活力の都市人類学 和崎春日

56 グローバル・カルチャーから見る現代のアフリカの若者:抵抗か「ポップ」か 清水貴夫

67 第二部 アフリカのカルチャーシーンを視る

68 アフリカの都市生活とアート 緒方しらべ

82 Column 国際的に活躍する「アフリカ系」アーティストたち 塚田美紀

88 アートシーンのフィールドワーク ―現代アフリカ美術を取り巻く場と人々― 中村融子

106 Column 「Yinka Shonibare CBE: Flower Power」初の日本個展 インカ・ショニバレの姿 正路佐知子

112 現代アフリカ建築と建設の今 ウスビ・サコ

126 アフリカのアニメについて クラベール・ヤメオゴ(訳・補足 遠藤聡子)

134 よりワールドワイドに発展/躍進を続ける、新世紀のアフリカ音楽 吉本秀純

142 ポルトガル語圏アフリカのポップス:無形文化遺産モルナの価値と評価 青木敬

150 西アフリカの「パーニュ」のファッション 遠藤聡子

159 第三部 グローバル空間で紡がれるアフリカ文化

160 大陸の外で変容し続けるアフリカ文化を繋ぐ ~フランスにおける新たなアフリカ文化クリエイター達の肖像から~ 阿毛香絵

174 日本社会に生きるアフリカ地域出身者たち 菅野淑

182 いまだ遭遇していない者を織り込んだ「コミュニティ」―香港のタンザニア人の事例から― 小川さやか

192 「私たち」はどこに向かうのか―まとめにかえて 清水貴夫

195 謝辞

196 関連のおすすめ書籍

198 引用・参考文献一覧


著者

中村 融子 | Nakamura Yuko

京都大学大学院アジアアフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻博士課程。東京大学法学部卒業。美術史・人類学の手法を用いて、主にアフリカ現代美術を研究する。美術制度史やアートエコシステムに焦点を当て、近代的美術制度の中心と辺境、陶芸史、現代陶芸もテーマとして扱う。キュレーター、講演等の活動を行っている。
著作に「アートシーンのフィールドワークー現代アフリカ美術を取り巻く場と人々」『現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る』(青幻舎)がある。