現代アフリカ文庫:Magiciens de la Terre

書名:Magiciens de la Terre マジシャン・ドゥ・ラ・テール 大地の魔術師たち
発行年:1989
発行:Centre Pompidou, Paris
種類:美術展図録
言語:フランス語
会場・開催期日:
Musée national d’art moderne Centre Georges Pompidou et Grand Halle de La Villette, Paris
ジョージ・ポンピドゥ・センター国立近代美術館、ラ・ヴィレット大ホール(パリ、フランス)
1989年5月18日―8月14日

欧米の主要美術館においてアフリカの現代作家を展示した初めての大規模展であり、現在のシーンを形作る多くの論争やキュレーション・コレクションのきっかけとなった、現代アフリカ美術にとって記念碑的展覧会。
1984年にニューヨーク近代美術館で開催された『20世紀美術におけるプリミティビズムー「部族的」なるものと「モダン」なるものとの親縁性』に寄せられた批判に応答して(注1)、西洋と非西洋のアーティスト100人を一堂に集めて同じ地平で展示するという、当時としては画期的な試みだった。アフリカ現代美術への多大な影響で知られるが、西洋を含む世界各国の作品を西洋中心的ではない形で提示した展覧会であり、実は、日本からも河口龍夫や、宮島達男らが参加している。この展覧会は大きな論争を巻き起こしたが、発展途上国、特にアフリカの選出アーティストが「独学」の作家たちに限られたことに批判が集まった(注2)。すでに近代的なアカデミズムに基づいた美術学校がアフリカ諸国にあるにも関わらず(注3)、民衆的な造形の職人や独学の作家を恣意的に選ぶことで、西洋の見たい「野性的なアフリカ」像、アフリカに対するステレオタイプを上塗りしているのではないかという批判である。
この展覧会では4人のキュレーターで地球上の地域を分担してリサーチした。その際アフリカを担当したのが、のちにアフリカ現代美術シーンのレジェンドとなるキュレーター&ギャラリストのアンドレ・マニャン(André Magnin)である。そして彼は、最終日に訪れた大富豪ジャン・ピゴッツィ(Jean Pigozzi)と共にアフリカ現代美術の大規模コレクションを形成し、2019年にはニューヨーク近代美術館にコレクションの一部を寄贈することになる。
展覧会に批判的な立場からも、新たな展示や美術雑誌の創刊など様々なアクションがとられた(注4)。そして、現代のアフリカの表象をめぐる応酬が、キュレーションやコレクションを通じて活発に行われることで、アフリカ現代美術シーンはますます発展して行ったのである。

注1:「『20世紀美術におけるプリミティビズムー「部族的」なるものと「モダン」なるものとの親縁性』と異なり」 (À la différence de l’exposition de 1984 «Primitivism in Twentieth Century Art: Affinity of the Tribal and the Modern») “Magiciens de la Terre”, Centre Georges Pompidou, Web, https://www.centrepompidou.fr/fr/programme/agenda/evenement/cTEXnL(2021年1月10日アクセス)。
注2:展覧会の後の批評や議論の展開については、Lucy Steeds et al., Making Art Global (Part 2) ‘Magiciens de la Terre’ 1989, Afterall Books, 2013 に詳しい
注3:Chika Okeke-Agulu and Okwui Enwezor, African Contemporary Art Since 1980, Damiani, 2009, p.10
注4:拙稿「アートシーンのフィールドワークー現代アフリカ美術を取り巻く場と人々」『アフリカ現代文化の今』(青幻舎、2020年)pp.91-92の年表参照。

目次
8-11 Préface Jean-Hubert Martin
12-13 IL – visiteur qui cherche le sens? – joue à revenir sur ses pas. Aline Luque
14-15 True Stories, ou Carte du monde poétique Mark Francis
16-17 6° 48′ Sud 38° 39′ Est André Magnin
18-19 La planète tout entière, enfin... Pierre Gaudibert
20-23 Ouverture du piège: l’exposition postmoderne et «Magiciens de la Terre» Thomas MacEvilley
24-27 Hybridité, identité et culture contemporaine Homi Bhabha
28-31 Ravissantes périphéries Jacques Soulillou
33-70 L’Autre, ce grand alibi Bernard Marcadé


著者

中村 融子 | Nakamura Yuko

京都大学大学院アジアアフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻博士課程。東京大学法学部卒業。美術史・人類学の手法を用いて、主にアフリカ現代美術を研究する。美術制度史やアートエコシステムに焦点を当て、近代的美術制度の中心と辺境、陶芸史、現代陶芸もテーマとして扱う。キュレーター、講演等の活動を行っている。
著作に「アートシーンのフィールドワークー現代アフリカ美術を取り巻く場と人々」『現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る』(青幻舎)がある。