ArtReview Power100にみるアフリカのプレゼンス(2)アフリカ現代美術シーンのスターたち
第一弾では、このパワー100のランキングを通じて、「アフリカ視点で世界を見る」こと、そのためのいくつかの重要なキーワードをご紹介しました。
さらにランキングを見ていくと、アフリカ現代美術のホットな動きを代表する、スターアーティストやキュレーターたちが登場します。
32位 Koyo Kouoh
Koyo Kouoh (コヨ・クオ)は、アフリカ現代美術シーンを代表する美術史家でありキュレーターです!1967年生まれのカメルーン人の彼女は、セネガルの Raw Material Company (ロー・マテリアル・カンパニー)の創業者で、現在は南アフリカのZeitz MOCAA(ツァイツアフリカ現代美術館)のディレクターを勤めています。彼女が大陸内でキャリアを形成しながら、オッペンハイム賞(2020年)を獲得するなど、国際的なプレゼンスを確保してきました。それは、オクイ・エンヴェゾーたちは、アメリカとか欧米の機関でキャリアを積んだ時代からの変化を感じますね。
まず注目したいのは、彼女がアフリカ大陸諸都市のアートセンターの創業者であること。アフリカ諸国では、公立の美術大学や美術館などのパブリックな美術インフラが脆弱である一方で、ローカルな美術の生態系を育む様々な新しいインフラが創出されています。その中でも、重要性を増しているのがアートセンターで、ロー・マテリアル・カンパニーはベナンのジンスー財団と並んでその先駆的な存在です。キュレーション、美術教育、レジデンス、知的生産、そして理論や批評についてのアーカイブまで行う、アートの総合施設として柔軟な役割をはたしています。
さらに彼女は、2019年に、ツァイツアフリカ現代美術館のディレクターに就任しました。2017年に南アフリカ・ケープタウンにできた巨大な美術館で、アートセンターで培ったノウハウを活かした企画を次々と打ち出しています。特に、2020年コロナ禍では、Head To Head というインスタグラムライブでの連続対談企画や、”Home is where the art is”というケープタウン市民の「持ち寄り」アート展など画期的で柔軟な企画で充実したアート活動を行いました!
2021年のArtnetの記事では、7人の美術館のトップの一人として、片岡真美(森美術館館長、次のあいちトリエンナーレのディレクター)らと共に美術館の未来についてインタビューを受けています。ここでも彼女は、既存の美術館の機能に留まらない動きの必要性を訴え、また、ウガンダ・カンパラのAfriart Galleryの例を引きながら、アートのエコシステムを機能させるために、独自のアートインフラを構築する必要性を訴えています。
52位 Zanele Muholi
Zanele Muholi (ザネレ・ムホリ)は、南アフリカのアーティスト、"ヴィジュアル・アクティビスト"です。南アは白人国家として出発し、アパルトヘイト政策を超えて現在に至る、アフリカ大陸でも独自の歴史を持つ国です。彼女のほかには、William Kentridge(ウィリアム・ケントリッジ)が有名ですが、ケントリッジは、過去に京都賞を受賞し、来日して作品を制作したこともあるそうです。
ムホリは、南アフリカの歴史の中で不可視化されてきたLGBTQの表象を写真で記録し、伝えてきました。アパルトヘイトを超えて「虹の国」になったはずの南アフリカでも、特に黒人のLGBTQのグループは、差別の対象となる現実があります。女性同性愛者は、おぞましいヘイトクライムの対象にもなりました。彼女自身、女性同性愛者としての当事者性も反映しながら、現実を克明に伝えるとともに、被害者性を超えて多様な姿も発信しています。
67位 Sammy Baloji
2018年にベルギーにて中村が撮影。Sammy Baloji(左)と同じくコンゴ民主共和国出身のEddy Kamuanga(右)
67位には、コンゴ民主共和国の偉大なアーティスト、Sammy Baloji(サミー・バロジ)がランクインしました!コンゴ民主共和国は、大地の魔術師たちのキュレーターの一人、アンドレ・マニャンと、彼が同展で出会ったジャン・ピゴッツィの協同によって、シェリ・サンバら、アール・ポピュレールの作家が90年代にアートワールドのスターダムにのし上がったことでよく知られます。コンゴ民主や首都のキンシャサをテーマにした展覧会が、2010年代だけでも複数ある、アフリカ現代美術のスター国です。
そんな中、Sammy Balojiは、首都キンシャサではなく東部のルブンバシの出身で、アール・ポピュレールの作家たちとは異なり、シリアスな作品を作ります。
コンゴ東部の鉱山都市の植民地時代、独立後も続く搾取の歴史についてリサーチし、実際に鉱山会社に残っているアーカイブも使って作品を作っています。
パリ・グランパレへのコミッション作品が2024年まで展示されています。
彼は、キュレーターやオーガナイザーの仕事を幅広く手がけています。コンゴ民主という国や歴史の表象・語られ方に多面的に働きかけているんですね。その中でも重要で、パワー100でも触れられているのが、ルブンバシ・ビエンナーレです。Rencontres de Bamako (バマコの出会い)という94年から始動したマリの国際写真ビエンナーレをモデルに、2008年に地元ルブンバシで国際ビエンナーレを創設しました。
2019年のエディションでは、コロンビア大学で博士号を取り立ての気鋭の学者Sandrine Colard をディレクターに登用しました。そして、2020年、パワー100の2位にランクインしたインドネシアのアートコレクティブ、Ruangrupaともコラボしています。
こちらのNew York Times の記事に詳細なレポートがあります。
The global mushrooming of fairs has reached Congo’s remote but resilient mining hub, where politics find its way into artists’ work.
ここでも、アフリカと東南アジアが、西洋を経由せずに直接つながる形で、国際的にトップレベルのコラボレーションが実現しています。アフリカから世界を見る視点の獲得や、日本とアフリカの本来あるべき対等なつながりを考えることが、急務であることが実感できるのではないでしょうか?
第三弾では、パワー100全体を見て、どんな人々とアフリカが並んでいるかを見ながら、これからのアフリカ現代美術シーンについてを見ていきたいと思います。
著者
中村 融子 | Nakamura Yuko
京都大学大学院アジアアフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻博士課程。東京大学法学部卒業。美術史・人類学の手法を用いて、主にアフリカ現代美術を研究する。美術制度史やアートエコシステムに焦点を当て、近代的美術制度の中心と辺境、陶芸史、現代陶芸もテーマとして扱う。キュレーター、講演等の活動を行っている。
著作に「アートシーンのフィールドワークー現代アフリカ美術を取り巻く場と人々」『現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る』(青幻舎)がある。