海外アートマーケットNews Picks!!:2025年11月後半

■海外アートニュース

ラグジュアリーブランド
シャネルは、上海のパワー・ステーション・オブ・アート(PSA)に、中国本土初の現代美術専門公共図書館「エスパス・ガブリエル・シャネル」をオープンすると発表した。同美術館の3階に位置する1万8000平方フィート(約1600平方メートル)のこの図書館は、日本人建築家の坂本一成氏が設計、5万冊以上の書籍とオーディオブックを所蔵し、火曜日時点で1万冊以上が一般公開されている。図書館には改装された展示ホールと黄浦江を見渡すテラスも併設されていされているという。(ARTnews)
https://www.artnews.com/art-news/news/chanel-power-station-of-art-contemporary-art-public-library-1234763509

中東・美術館
グッゲンハイム・アブダビ・コレクションでは、ジャン=ミシェル・バスキア、ジャクソン・ポロック、マーク・ロスコ、アンディ・ウォーホルといった西洋美術の巨匠に加え、アジア、アフリカ、アラブ諸国といった地域から集まった、あまり知られていない現代美術家の作品を展示する予定だと、アブダビ文化観光局長が初めて発表した。グッゲンハイム・アブダビは、グッゲンハイム・ビルバオも設計した名建築家、フランク・ゲーリーの設計。アブダビのダウンタウンから車で5分のサディヤット島に2026年に開館予定だ。(ARTnews)
https://www.artnews.com/art-news/news/guggenheim-abu-dhabi-basquiat-warhol-1234763670

アートフェア
フリーズの買収を前にアブダビ・アートフェア(ADA)は勢いを増すも、売上は依然として期待に追いついていないようだ。ADAは出展者の構成を意図的に調整し、一流コレクターと新興コレクターの間にある溝を埋めようと努めてきた。新たに設置されたフォーカス部門では、グローバル・サウス(今年はナイジェリア、トルコ、南アジア)の特定のアートシーンにスポットライトを当てており、こちらも新しいエマージ部門では、3,000ドル以下の作品を展示するギャラリーに優待ブース価格を提供し、新たなコレクターの開拓を目指している。「多くのギャラリーはアメリカやヨーロッパでの販売に過度に依存しています。彼らは多様化のために湾岸諸国に足を運んで来るのです」と、ディレクターであるディアラ・ヌセイベ氏は述べている。(ARTnews)
https://www.artnews.com/art-news/market/abu-dhabi-art-2025-scene-frieze-sales-1234763435

アート・バーゼル香港が、2026年の出展ギャラリー240社を発表した。2026年版は42の国と地域から240のギャラリーが参加、出展者数は昨年の242社とほぼ横ばいだ。ギャラリー部門には182社が出展し、半数以上がアジア太平洋地域に拠点を置いており、そのうち29社は香港に拠点を置いている。初出展となるギャラリーは32社だが、一方で前回のギャラリー部門に出展していた33社は不参加となる。アート・バーゼル香港は3月27日から29日まで香港コンベンション&エキシビションセンターで開催予定で、プレビューデーは3月25日と26日。(ARTnews)
https://www.artnews.com/art-news/news/art-basel-hong-kong-2026-exhibitor-list-announced-1234761975

フリーズ・ロサンゼルスが、2026年版はサンタモニカ空港に出展者95社を集めて開催すると発表した。出展者は22カ国から集まり、ガゴシアン、ハウザー&ワース、ペース・ギャラリー、デイヴィッド・ツヴィルナー、リッソン・ギャラリー、タデウス・ロパック、ホワイトキューブ、グラッドストーンといった一流ギャラリーに加え、コモンウェルス&カウンシル、デイヴィッド・コルダンスキー・ギャラリー、シャトー・シャット、チャーリー・ジェームズ・ギャラリー、ナイト・ギャラリー、ザ・ピットといったロサンゼルスを代表するディーラーも参加する。会期は2月26日から3月1日まで。(ARTnews)
https://www.artnews.com/art-news/market/frieze-los-angeles-2026-exhibitor-list-1234762548

ギャラリー
ニューヨークの老舗ギャラリー、スペローネ・ウェストウォーターが50年の歴史に幕を閉じる。50周年を祝った2か月後、「50年間の成功を経て、スペローネ・ウェストウォーター・ギャラリーは12月31日で閉館します。共同創設者のアンジェラ・ウェストウォーターとジャン・エンツォ・スペローネはそれぞれ別の道を歩むことを決意したためです」と、同ギャラリーが声明で発表した。今回の事業分離はブルース・ナウマンやデヴィッド・リンチとなどを含む28人のアーティストと遺産に影響を及ぼすとみられるが、ギャラリーは彼らの今後について、また、2010年に2000万ドル以上をかけて建設されたバワリー地区のタワーが売却されるかどうかについてコメントを拒否した。(artnet)
https://news.artnet.com/market/sperone-westwater-gallery-winding-down-2712272

オークション
ニューヨークで開催されたサザビーズの10億ドル規模のオークションで、アジアのコレクターたちが傑作を競い合った。シンディ&ジェイ・プリツカー・コレクションの「ホワイトグローブ」オークションでは、フィンセント・ファン・ゴッホの「パリのローマ人」が6,270万ドル(約97億5,000万円)で落札され、パティ・ウォン・C・アソシエイツのパティ・ウォン氏がクライアントの代理で入札した。次に行われたシュルレアリスム美術のコレクション約24点のオークションでも、フリーダ・カーロの「エル・スース(La cama)」が出品作品のトップとなり、5,470万米ドル(約85億円)で落札された。これは女性アーティストの作品としてはオークション史上最高額である。(artdaily)
https://artdaily.cc/news/187608/Collectors-in-Asia-compete-for-major-masterworks-across-Sotheby-s--1-billion-sales-in-New-York

行政
政治的麻痺がブリュッセルの野心的なアート複合施設を脅かしている。2026年11月28日を開館予定として、ブリュッセルの新しい現代美術館・カナルの建設工事は予定通りに進んでいる。このセンターは95%完成しており、キュレーターたちは、パリのポンピドゥー・センターから貸し出されたマティス、ピカソ、ジャコメッティの作品を展示するオープニング展に向けて最終調整を行っている。しかしここ数週間、カナル開館をめぐる議論は「いつ」から「開館するかどうか」へと移り変わっている。ベルギー地方選挙から1年半が経過した現在も、機能する政府が誕生する兆しは未だ見当たらない。確実なのは緊縮財政措置と、カナルの予算を半分以上削減するという議論だ。(The Guardian)
https://www.theguardian.com/world/2025/nov/28/brussels-political-paralysis-threatens-ambitious-kanal-arts-complex

美術館
巨大なデジタル看板からテック界の億万長者へのアドバイスまでーアメリカの美術館は様々な収益化策に取り組んでいる。例えばマイアミビーチとダウンタウンを結ぶ高速道路を見下ろすように存在する、約160平方メートルのデジタル看板。スクリーンにはイヴ・サンローランやティファニーといったブランド広告が表示されている。人々はこの看板の所有者が隣接する近現代美術館、ペレス・アート・ミュージアム・マイアミ(PAMM)だと知って驚くかもしれない。PAMMに年間少なくとも120万ドルの収益をもたらすと推定されるこの看板は、アメリカの美術館で起こっている変化を示唆している。財政難に直面する多くの美術館は、ますます起業家精神を育み、美術品の販売から技術革新、不動産開発まであらゆる試みを行っている。(Financial Times)
https://www.ft.com/content/590e3622-48fd-4b6f-8a3c-85a12800c17

個人美術館
ユタ州オグデン渓谷にある「スキーで楽しめる美術館」を標榜するスキーリゾート、パウダーマウンテンで、2つの主要なランドアート作品が公開された。アメリカ人アーティスト、ナンシー・ホルトの「スターファイア」(1986年)と、日本のモハアーティスト、関根伸夫の「虚無の位相 – 石積み」(1970年/2025年)だ。たとえアーティストがこの世を去ってから長い時間が経っても作品は生き続けるーこれはアートライティングにおける最初の教訓の一つだが、アーティストの死後、作品が一気に結実することは非常に稀と言える。(artnet)
https://news.artnet.com/art-world/powder-mountain-land-art-2703100

アーティスト
7つの重要作品に見る、ゲルハルト・リヒターの伝説とは。パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンでは、リヒター史上最大規模の展覧会が開催中だ。「ゲルハルト・リヒター」とシンプルに題されたこの展覧会では約270点の作品が展示され、2020年にメット・ブロイヤーで開催された回顧展の約3倍の規模となっている。リヒターはこの展覧会のために、以前から共に仕事をしてきた元テート・ギャラリー館長のニコラス・セロータと、元チューリッヒ・ヴィンタートゥール美術館館長のディーター・シュヴァルツをキュレーターとして起用、彼の多岐にわたる制作活動をこれまで以上に深く掘り下げる内容となっている。(artnet)
https://news.artnet.com/art-world/gerhard-richter-fondation-louis-vuitton-paris-2713209

ヴェネツィア・ビエンナーレ
第61回ヴェネツィア・ビエンナーレは2026年5月の開幕に向けて準備を進めている。アメリカはユタ州生まれ、メキシコを拠点に活動するアルマ・アレンを選出。この彫刻家による新たなサイトスペシフィックな作品群は、「エレベーション(高度)」というコンセプトに基づいて構想されており、彼の才能を存分に発揮することだろう。一方カタールは1995年以来となる新パビリオンを建設するため、場所を確保したと発表した。新館の設計は大英博物館ウェスタン・レンジ・ギャラリーの再設計も手掛けたレバノンの建築家、リナ・ゴットメが担当する。スコットランドとウェールズは、2022年と2019年以来初めてそれぞれ独立した国として参加するなど、各国の動きが活発となっている。展覧会は2026年5月9日から11月22日まで開催される予定だ。(artnet)
https://news.artnet.com/art-world/venice-biennale-2026-national-pavilions-2604196


著者

大胡 玄 (おおご げん)

大学卒業後
1998年 コーンズアンドカンパニーリミテッド
2004年 ニューヨーク大学教育学部スタジオアーツ写真専攻 修士課程修了
2004年 クリスティーズ(NY) 日本・韓国美術部門
2007年 クリスティーズ ジャパン
アジア現代アート及び NY・Londonのコンテンポラリーアート
個人コレクターを中心に美術品全般の出品/落札に携わる
2019年 株式会社アマナ ARTshelfプロジェクト
2021年 大胡アートアドバイザリー合同会社 設立