Hayv Kahraman | ハイヴ・カーラマン
Local Game
局地戦
2015
243.8 x 152.4 cm
oil on linen

イラクに生まれたカーラマンは、11歳のときに第一次湾岸戦争のため難民となり、スウェーデンに移住しその後イタリアで美術を学びました。12、13世紀バグダッド派の細密画やルネサンス絵画、さらには日本の墨絵にも影響を受けた彼女の作品は、繊細な筆使いや古典的な構図を用いて、自身の複雑なアイデンティティーや政治的内容、さらにはフェミニズムへの言及も行います。

正方形を囲む5人の女性が描かれている本作は、その下に添えられたアラビア語のテキストから、彼女たちがチェス盤を舞台にアメリカとイラクの政治的状況をシニカルに演じていることが示唆されます。西洋で古くから政治の象徴として絵画に描かれてきたチェス盤のモチーフを援用し、それを無表情な女性にプレイさせることで、カーラマンは自らのアイデンティティーにも関わる政治的状況に対し軽やかに批判を加えています。また画面上で描かれる女性は本来イラクでは身にまとっているはずのヒジャブ*を着ておらず、彼女たちの肌が観衆の目にさらされています。こうした描写からも彼女の女性のアイデンティティに対する意識が伺われます。

* ムスリムの女性が頭や身体を覆う布

（解説 & 翻訳：岩田 智哉）