PixCell-Deer#51

courtesy of SCAI THE BATHHOUSE photo: Nobutada OMOTE | Sandwich

Kohei Nawa | 名和 晃平
PixCell-Deer#51
2018
219.7 x 189.0 x 150.0 cm
Mixed media

名和晃平は1975年生まれ。現在京都を拠点に活動。彫刻を中心として素材へのあくなき探求と同時に新しい技術を積極的に取り入れ、情報社会の現状を反映させた斬新な発想で制作を続けています。

本作はインターネットで収集した物を虚像として彫刻化する「PixCell」シリーズの1つで、モチーフとなった鹿の剥製はクリスタルガラスの大小のビーズで隙間なく覆われています。鹿を使った作品は繰り返し制作されており、本シリーズの中で最も代表的なモチーフとなっています。

タイトルの「PixCell」は、Pixel(画素)とCell(細胞 / 器 / 粒)を複合させた造語です。インターネット越しに物を見たり、デジタルカメラで写真を撮るとき、物のイメージはすべて光学情報としての”画素”に変換されて私たちの目に入ってくることになります。ガラスのビーズは物の表皮がすべて画素に変換されている様を彫刻的に表しています。ビーズに覆われた物を私たちは決して直接見ることはなく、見る角度によってその像も歪んだり拡大されたりします。作家は人形やスニーカー、楽器など様々なものにビーズを施してシリーズ化していますが、どれもビーズによってその表皮は同じような質感に置き換えられています。私たちがモニター越しに物を見るときに感じるもどかしさや違和感を体現したといえるかもしれません。

鹿は日本においては神に例えられることもある神聖な動物です(本作は釧路で制作されたエゾシカの剥製を使用)。しかし近年は増えすぎて害獣とも言われ駆除されてしまう現実もあります。人間社会と自然との関係を考える切り口としても興味深い存在です。
ガラスビーズで覆われた鹿は、輝く光の集合体として再生し、まるで内側から発光しているかのような様相で見る者の前に現れます。その美しさとの遭遇も本作を「体験」する大きな魅力となっています。

(解説:田口 美和)