現代アフリカ文庫:アフリカ・リミックス 多様化するアフリカの現代美術

書名:アフリカ・リミックス 多様化するアフリカの現代美術 AFRICA REMIX: Contemporary Art of a Continent
発行年:2006
発行:森美術館
種類:展覧会図録
言語:日本語
会場・開催期日:
森美術館 2006年5月27日−8月31日
クンスト・パラスト美術館(デュッセルドルフ、ドイツ) 2004年7月24日―11月7日
ヘイワード・ギャラリー(ロンドン、イギリス) 2005年2月10日―4月17日
ポンピドゥー・センター 国立近代美術館(パリ、フランス) 2005年5月24日―8月8日
ストックホルム近代美術館(ストックホルム、スウェーデン) 2006年10月14日―2007年1月14日(注1)
ヨハネスブルグ・アート・ギャラリー(ヨハネスブルグ、南アフリカ共和国) 2007年6月24日―9月30日(注2)

25カ国総勢84名のアーティストを展示した国際巡回展の東京会場カタログ。日本では東京・森美術館にて開催。チーフ・キュレーターはシモン・ンジャミ(Simon Njami)、日本展監修は国立民族学博物館(元世田谷美術館)の川口幸也
当時既に国際的に地位を確立していたガーナのエル・アナツィ(El Anatsui)、ピゴッツィ・コレクションからコンゴのシェリ・サンバ(Chéri Samba)やシェリ・シェラン(Chéri Cherin)、アパルト・ヘイト後の南アフリカで政治的メッセージも扱ってきたジェーン・アレクサンダー(Jane Alexander)やウィリアム・ケントリッジ(William Kentridge)、2007年のヴェネツィア・ビエンナーレのアフリカ館で世界の注目を集めることになるナイジェリア系イギリス人のインカ・ショニバレMBE(Yinka Shonibare MBE)(注3)、2019年の同ビエンナーレでマダガスカル館を担当することになるジョエル・アンドリアノメアリソア(Joël Andrianomearisoa)など、世代・地域・バックグラウンド全てにおいて実に多様なアーティストが参加している。
シモン・ンジャミは、かねてより『大地の魔術師たち』展で提示されてきたアフリカ像に異議を唱え、美術展をキュレーションするほか、美術雑誌レヴュ・ノワール(Revue Noir)を創刊して都会的で多様なアフリカ観を提示してきた(注4)。アフリカに関する美術展において独学のアーティストばかりが選出されてきたことだけでなく、「アフリカ」と一括りにしたイメージにおける、サハラ以南の地域(いわゆるブラックアフリカ)への偏ったフォーカスや宗教的多様性の無視を問題視しており(注5)この展示では地域や教育背景についても包括的な人選がなされた。「アフリカ」と入ったこの展覧会タイトルも当初ンジャミが望んだものではなく、最終的に図録の序文のタイトルとなる「混沌と変容(Chaos et métamorphoses)」を展覧会自体のタイトルとして提案していた(注6)。
エッセイパートも、『大地の魔術師たち』のディレクター、ジャン=ユベール・マルタン(Jean-Hubert Martin) が当時のキュレーション方針を振り返るエッセイをはじめ、様々な立場のキュレーターや学者による多様な角度からの論考が収録されており大変充実している。『大地の魔術師たち』以降、ピゴッツィ・コレクションとは異なる立場でアフリカ表象を作ってきた人々の06年の現在地が分かる。東京展図録には、川口幸也による戦後日本におけるアフリカ美術の受容についてのエッセイも掲載されている。

注1:“Africa Remix”, Moderna Museet, https://www.modernamuseet.se/stockholm/en/exhibitions/africa-remix/(最終アクセス2021年1月14日)
注2:“Africa Remix: Contemporary Art of a Continent, Johannesburg Art Gallery, South Africa”, CAACART: The Jean Pigozzi Collection, Web, http://www.caacart.com/pigozzi-exhibition.php?i=Africa-Remix:-Contemporary-Art-of-a-Continent,-Johannesburg-Art-Gallery,-South-Africa&m=223(最終アクセス2021年1月14日)
上記二会場での開催期日は、日本語カタログに掲載されている開催予定期とは異なる。
注3:当時。インカ・ショニバレは2004年にMBE(大英帝国勲章五等勲位)を受勲され、2019年にCBE(大英帝国勲章三等勲位)の称号を授与された。
注4:“New Website for Revue Noire”, Revue Noire [blog post], https://www.revuenoire.com/en/new-web-site-for-revue-noire/
注5:シモン・ンジャミ、「混沌と変容(カオスとメタモルフォーズ)」、『アフリカ・リミックス:多様化するアフリカの現代美術』、森美術館、2006年、p.10
注6:Phillipe Dagen et Serge Michel, «L’art africain» sous le regard de l’Occident, Le Monde Hors-Série, Art, Le printemps Africain, Mai-Juin 2017, p.63

目次
6 ごあいさつ デヴィッド・エリオット
8 アフリカ大陸の地図 Map of Africa
9 混沌と変容(カオスとメタモルフォーズ) シモン・ンジャミ
20 アフリカ、展覧会、暗闇の恐怖 デヴィッド・エリオット
26 アフリカ美術の受容 ジャン=ユベール・マルタン
36 アフリカは北から始まった…… アブデラワハブ・メデブ(マリー=ロール・ベルナダックとの対話)

図版 Plates (章解説:シモン・ンジャミ)
45 アイデンティティと歴史 Identity & History
79 身体と魂 Body & Soul
113 都市と大地 City & Land

162 メイド・イン・アフリカ ジョン・ピクトン
172 アフリーシュ(アフリカという、荒地(フリーシュ)) ジャン=ルー・アンセル
178 アーフリークィヤ(AH-FREAK-IYA):現代アフリカ音楽を聴くために ルーシー・デュラン
180 アフリカ映画における自己表現 マンティア・ディアワラ
186 ジャンルが交錯するパフォーマンスーー演劇から儀式へ、あるいは混沌の美学 ベルナール・ミュレ
193 ファッションとアフリカの理念 フディタ・ヌラ・ムスタファ
199 マルチプレーヤー――アーティスト主導とキュレーターのリレーによるプロジェクト クレモンティーヌ・ドゥリス
207 戦後日本におけるアフリカ美術の受容――その歴史的概観 川口幸也
219 作家略歴および解説 Artists’ Biographies
250 主要参考文献 Selected Bibliography
253 作品リスト List of Works
265 執筆者略歴 Essay Writers’ Biographies

付属CD-Rom
サンプラー(現代アフリカ美術の語彙解説(インデックス付き))Sampler (Terminology of Contemporary Art) with index
作家略歴および解説 Artists’ Biographies
主要参考文献 Selected Bibliograph


著者

中村 融子 | Nakamura Yuko

京都大学大学院アジアアフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻博士課程。東京大学法学部卒業。美術史・人類学の手法を用いて、主にアフリカ現代美術を研究する。美術制度史やアートエコシステムに焦点を当て、近代的美術制度の中心と辺境、陶芸史、現代陶芸もテーマとして扱う。キュレーター、講演等の活動を行っている。
著作に「アートシーンのフィールドワークー現代アフリカ美術を取り巻く場と人々」『現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る』(青幻舎)がある。