現代アフリカ文庫:インサイド・ストーリー アフリカの同時代美術

書名:インサイド・ストーリー アフリカの同時代美術 An Inside Story: African Art of Our Time
発行年:1995
発行:美術館連絡協議会、読売新聞社
種類:展覧会図録
言語:日本語/英語・フランス語
会場・開催期日:
世田谷美術館 1995年9月23日―11月19日
徳島県立近代美術館 1996年1月20日―3月17日
姫路市立美術館 1996年4月6日―5月6日
郡山市立美術館 1996年5月18日―6月23日
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 1996年7月7日―9月1日
岐阜県美術館 1996年9月13日−10月27日

当時、世田谷美術館に在籍した川口幸也が主な企画者となり、日本で初めて開催された現代のアフリカ人アーティストの美術展。まず注目すべきは、エル・アナツィ(El Anatsui)やロミュアルド・アズメ(Romuald Hazoumè)ら現在、世界的な存在となったアーティストの初期作品が展示されている点であろう。特に、同年にオクトーバー・ギャラリーでの初個展を開催した(注1)エル・アナツィによる木彫作品は見事であり、現在では最もよく知られる布をモチーフにしたオブジェを作り始める前の、彼のアーティストとしての軌跡を知ることができる。90年代半ばにこうしたコレクションが世田谷美術館に形成されたことの意義は大きい(注2)。
またこの展示は、植民地支配下の1920年ごろから西洋人によって開かれた私塾で描かれた「絵画」作品、アフリカ諸国で独立期(1960年代から70年代)モダニズム作品を展示し、90年代に至るアフリカの美術を取り巻く近現代史の紹介を試みた。同時に、セネガルのガラス絵や各国のストリートアートなど、人々の生活に馴染みの深い都市のアートも同時に展示された。その分類と解説のトーンに、90年代当時のアフリカ現代美術シーンの状況が反映されている。エッセイパートでは、ダカールの研究者が(当時の)セネガルの現代美術動向を美術制度史を抑えつつ紹介する小論文、独立前後のアフリカで勃興したモダニズム美術運動についてのエッセイのほか、日本人研究者たちによるアフリカ美術らしさを期待するまなざしを見つめ直す論考などが収録されている。90年代当時のアフリカと西洋中心的な美術制度の関係や、それをめぐる議論の状況が理解できる。

注1:オクトーバー・ギャラリーは、ロンドンにあるアフリカを含む非西洋のアーティストを多く扱ってきた有名ギャラリー。トランス・アヴァンギャルド運動の先駆的な存在としても知られる。エル・アナツィのギャラリー展示についてhttps://octobergallery.co.uk/artists/anatsuiを参照。
注2:同館はこれ以降アフリカの美術コレクションを形成し、2018年−2019年には 「ミュージアムコレクションⅢ アフリカ現代美術コレクションのすべて」を開催した。

目次
8 序論 川口幸也
11 ポスト=コロニアル時代のアフリカ現代美術 デレ・ジェゲデ
14 セネガルの現代造形美術――状況と展望 アブドゥ・シィラ
20 オショボ ウリ・バイアー
23 ヴォウヴォウ クラ・ンゲッサン

カタログ
27 I. プロローグ
35 II. フリー・スクールの時代
73 III. 伝統とモダニズム
95 IV. アートを超えて

154 所感:アフリカと私の今――ムスタファ・ディメの作品から 古川秀昭
156 私が見たアフリカ「美術」の一断面 菅野洋人
157 アフリカの感性――その静かな一面 吉原美恵子
158 アフリカの新しい伝統:いま,アビジャンのストリートから 鈴木ひろゆき
160 インサイド・ストーリーあるいはオーセンティシティの神話 川口幸也

164 Introduction by Yukiya Kawaguchi
166 Contemporary Art in Post-Colonial Africa by Dele Jegede, Ph.D
169 Les arts plastiques sénégalais contemporains: situation et perspectives par Abdou Sylla
175 Oshobo by Ulli Beier
177 Le “Vohou Vohou” par Kra N’Guessan
179 Catalogue
I. Prologue
II. The Age of Free School
III. Tradition and Modernism
IV. Beyond Art

190 Africa and Myself: Impressions of the works of Moustapha Dimé by Hideaki Furukawa
192 A Cross-Section of the African “Art” I Have Seen by Hiroto Kanno
193 The Quiet Side of African Sensibility by Mieko Yoshihara
194 New African Traditions: From the Streets of Abidjan by Hiroyuki Suzuki
196 An Inside Story: The Myth of Authenticity by Yukiya Kawaguchi
198 関連年表
199 主要参考文献 / Selected Bibliography


著者

中村 融子 | Nakamura Yuko

京都大学大学院アジアアフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻博士課程。東京大学法学部卒業。美術史・人類学の手法を用いて、主にアフリカ現代美術を研究する。美術制度史やアートエコシステムに焦点を当て、近代的美術制度の中心と辺境、陶芸史、現代陶芸もテーマとして扱う。キュレーター、講演等の活動を行っている。
著作に「アートシーンのフィールドワークー現代アフリカ美術を取り巻く場と人々」『現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る』(青幻舎)がある。