3軒のビーチハウス、ケープコッド
Maureen Gallace | モリーン・ギャレース
3軒のビーチハウス、ケープコッド
2002
油彩 / リネン
28.0 x 35.5 cm
ビーチハウスを望むその向こうには、水平線と曇った空。手前には、風に吹かれる草の茂みが描かれている。ギャレースは故郷のコネチカットやなじみのあるリゾート地ケーブコッドの風景を繰り返し描いてきました。特徴的なのは、家や小屋のような簡易な建築をやや遠巻きに眺める距離感と、人間が描かれていない点です。
大振りの筆致でラフに描かれた草に比べ、ビーチハウスの壁には丁寧に白が塗りこめられています。窓や扉などの開口部は描かれておらず、ビーチハウスは人を迎え入れるものというよりも、風景のなかでやや異様な存在感を放つオブジェのようにも見えます。水平線とオブジェの組み合わせは、モランディの静物画を思い起こさせます。小さい画面のなかには、細部を省略し局限まで厳選された要素が配置され、筆致の使い分けによっておおらかさとともに緊張感のあるイメージとなっているのです。
作品タイトルに示されているものの、このように単純化されたイメージからは、描かれている場所を特定することはできません。それゆえだれもがどこかで一度は見たことがあるような景色として、見る人自身の記憶と接点を持ち、それぞれの物語を重ね合わせることができるでしょう。
(解説:木下 紗耶子 / 翻訳:辻 愛麻)